大会長挨拶


日本身体障害者補助犬学会 第13回学術大会
大会長 川村 慶
(川村義肢株式会社 代表取締役)

 国民が解りやすい表面的なところばかりに投資している日本に、私は限界を感じはじめています。「障害者」を「障がい者」と表記を変えただけで“配慮した気になっている”のがその象徴的な一つであり、本質が伴っていない事例が散見されます。2018年に省庁及び地方自治体等の公的機関において障害者雇用水増し問題が発覚し国民に衝撃を与えたことも記憶に新しいと思います。2002年に身体障害者補助犬法が施行されても、飲食店だけではなく医療機関でさえ補助犬の同伴拒否があるなど補助犬への理解はまだまだ進んでいるとは言えません。
 このような潜在化してしまった問題を顕在化し解決することで、日本が模範的で素敵な国になる方法はないかと考えてみました。そこでインバウンドで成功した大阪流おもてなし『お節介』にヒントがあるのでは?と気づいたのです。1995年私は研修のためドイツで2年間暮らしていたのですが、アメリカンフットボールの試合で膝の靭帯を損傷しクラッチ杖の生活を余儀なくされました。自宅が旧市街の中にあったため一歩玄関を出ると石畳が敷き詰められており、近くにある店の多くは玄関に階段があり当然ながら自動ドアがありません。ですが、見ず知らずの方々に手伝っていただき困ったことは一度もありませんでした。階段や段差の前で手伝ってくれる人を待っているベビーカーの母親もよく見かけました。女性が独りで赤ちゃんをベビーカーに乗せたまま必死に階段を上がっているなんて光景は見たことがありません。
 開催予定地であった我が街 大阪府大東市は人口12万人です。何か新しいことをやりはじめようとするには多すぎず少なすぎず丁度いいスケールです。「地域リハビリテーション発祥の地」とも「ノーマライゼーション実践の町」とも呼ばれていますが、それは昭和50年代の初めに障害のある子どもを育てる母親たちが、健常者・障害者に関わらず地域で教育を受けさせたいという願いから、必要なハードやソフトの整備を求めた活動がそもそもの始まりです。地域包括ケアシステムの原点を、永年醸成されてきた大東市の風土から得たものは多く、今大会は、WEB開催ではありますがWEBならではの方法で皆様にお伝えするコンテンツを考えております。
 大会テーマである「すべての人が暮らしやすい街に“できること”を考える」には「すべての人が暮らしやすい街」と「すべての人が“できること”を考える」。この2つの意味が込められています。人は身を置くフィールドによって変化していきます。困っている人に気づいたら「お手伝いできることはありませんか?」を気軽に言える社会(フィールド)を目指しましょう。パラリンピックの父、ルートヴィヒ・グットマン博士が傷痍軍人たちにかけた言葉「失ったものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ」を2020東京パラリンピック無形のレガシーとして確固たるものにしましょう。そんな未来進行形の想いを込めたテーマです。未知のウイルスに負けない心の免疫力が高まり、未来進行形のワクワクさせてくれるような学術大会を創り上げてまいります。新しい学術大会の〝カタチ〟を皆さんとともにチャレンジできれば幸いです。